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高松高等裁判所 昭和58年(う)262号 判決

被告人 Y(昭○・○・○生)

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は被告人本人及び弁護人近石繁利各作成名義の控訴趣意書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

各所論は要するに、被告人を懲役一年四月に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで記録を精査し、当審における事実取調べの結果も加えて検討するのに、本件は暴力団組員である被告人が、家出中の一五歳の女子高校生と、一七歳の同中退者の両名に、被告人がひきあわせた男性を相手に各三回にわたつて売春させ、もつて児童に淫行をさせたという事案であるところ、これによつて同女らの徳性を鈍麻させ、その非行性を助長伸展させる結果をもたらした反面、被告人自らはかなりの額の仲介料を取得していたというものであつて、その犯情はまことに悪質であるのみならず、被告人には罪種こそ異なるが、これまで原判示の累犯前科を含む多数の前科があること等も総合すると、その刑責はたやすく軽視することができない。

なお、被告人には本件以外に、覚せい剤取締法違反の別件(無償譲渡及び自己使用各一件)があつたが、管轄の関係で、両件を併合して同時に審判を受けることができず、右別件については管轄裁判所である松山地方裁判所に起訴され、審理がなされた結果、原判示のように懲役一年二月の判決が確定するに至つていることは各所論のとおりであるけれども、原審もこの点は十分配慮のうえ、その科刑に出でたことが審理経過等からも窺われるし、改めて右別件の存在や、各所論が指摘するその他の諸事情をできるかぎり斟酌してみても、前述した諸点にかんがみると、原判決程度の科刑はやはりやむをえないところと認められ、それが重過ぎて不当であるとまでいうことはできないから、論旨は理由がない(なお、児童福祉法三四条一項六号、六〇条一項所定の罪は、その法益が対象である児童の福祉という一身専属的な利益であることにかんがみ、淫行をさせた児童一名ごとに一罪が成立するものと解すべきであるから、二名の児童に淫行をさせた本件は併合罪として処理すべきであるのに、これを包括一罪として処理した原判決は法令の適用を誤つたものといわねばならないが、被告人には累犯前科があり、併合罪の処理にあたつては刑法一四条の適用を受けることとなる結果、いずれにしても処断刑期の範囲は同一であるから、この誤りが明らかに判決に影響を及ぼすものとは認められない)。

よつて、刑訴法三九六条、一八一条一項但書により、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤野博雄 裁判官 田村承三 田尾健二郎)

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